ホットワイヤ型のエアフローセンサでは「エアクリーナーを純正からスポーツタイプ(とりわけキノコタイプ)に変えると燃調がズレる」とか言われることがありますね。
尤もO2センサからのフィードバック補正が掛かる領域では当然関係ありませんので、正確に言うと「吸気量測定に誤差が生じる」ということになりますが...
ボクは自分で測定したことも他の人が採ったデータを見たことも無いので真偽の程は判りませんが、チューニング関係の本などでは「エアの流れが吸気管の壁面近くを多く流れるようになるから」などと実しやかに書かれているのを目にします。
本当なんでしょうか?
と言うのも、真面目なエンジンの工学書でそういった説明に未だお目にかかっていないんです。
代わりにここでは、上記の様な現象の他に測定誤差が生じる理由について、ホットワイヤ型エアフローセンサの原理と特性を切り口に考察してみたいと思います。
ぶっちゃけて言うと、「電流を流して熱くしたワイヤーを吸気管の中に設置して、そこを流れる空気によって熱を奪われる度合から空気流量を計る」センサです。
![[エアフロセンサ原理図]](air-flow.gif)
これは原理図。
吸気管の中に、空気流量を検出する熱線プローブ(ホットワイヤ)、空気温度を検出する温度プローブを設置して、熱線プローブと空気温度プローブの温度差が常に一定になるように熱線プローブに電流を流し、その電流値をエアフロセンサ信号とします。
空気流量と信号との関係は
A,B : 定数
となります。
特性をグラフにすると大体こんな感じです。
このように空気量が少ない時は信号変化が大きく、多い時には信号変化が緩やかになるという特性というのは後にECUでA/Dすることを考慮すると、ダイナミックレンジが確保しやすいという点で扱い易い特性なのです。
参項までに、NA6CE等に採用されているフラップ式の場合はこれとは逆に、空気量が少ない時は信号変化(厳密にはフラップの振れ)が小さく、多い時には信号変化が大きくなるという特性を持っています。
そして、その様な特性の信号を広い範囲で精度良くA/DするためにはA/Dコンバーターに高い分解能が要求されるので、ECUにとってみるとこれは少し厄介な特性と言えます。
(実際には、このフラップの振れの特性を補正するように摺動抵抗分布にカーブを持たせ、出力信号自体は扱い易い特性に仕立て上げる場合が多いです)
エアフローセンサの主流がフラップ式からホットワイヤに移ってきたのは、可動部分が無くて信頼性が高いとか、気圧変化の影響が無いから補正が要らないなどの他に、この様な特性上の事情も関係しているのです。
では、実際にエンジンの吸気量を測定する為には、センシング部分の断面積、吸入空気の流量分布、センサ回路定数などから上の計算式の定数 A、Bが決まりますから、それを元にマイコンで演算するなり、予め変換テーブルを作成するなりしておけば吸気量が求められる筈です。
しかし、コトはもう少し複雑です。
ご存じの様にエンジンの吸気というのは脈動しています。
当然の事ながら吸気の脈動にしたがってセンサ出力も脈動しますから、こいつを積分した平均値を用いて吸気量を求めます。
(積分はエアフローセンサユニット側でやるのかECU側でやるのかは知りません)
ところで、上のグラフで示したようにホットワイヤ型エアフローセンサは非線形の特性を持っていますので、例えば吸気が以下のような脈動を持っていたとすると...
特性の傾きは上側で寝ていますから、以下のような上側が少しつぶれた波形となってセンサ出力に現れます。
(ここでは、簡単の為に応答特性に関しては無視しています)
これを積分した平均値というのは赤とピンクの線で示したように、真の吸気量平均に相当するセンサ出力値よりも低い値を示します。
つまり、
脈動の影響でエアフローセンサ信号は低い方向にズレるので、設計された吸気系の脈動によって生じるセンサ信号のズレを見越した上で、それを反映させた変換テーブルを用意する必要があるのです。
脈動がうんと大きくなると、小さな逆流を伴うようになります。
熱線プローブ近辺で逆流が起こると、一度熱線プローブを通過して熱せられた空気が再び熱線プローブの周囲を包み込むので、プローブから奪われる熱量が目減りします。
当然、吸気量は少ない方向にズレることになります。
(逆流がもっと大きくなると、今度は多い方向にズレだします。)
このような逆流の影響を受けにくくする為に考え出された構造がありまして、「分流式」と呼ばれます。
これはセンシングする吸気を分岐・回り道をさせる分流通路を設け、その通路中に熱線プローブを設置するものです。
BPのエアフローセンサはこの方式です。
この分流通路は、空気流の慣性による平均流速増加効果を利用して、脈動と逆流による誤差を相殺するようにデザインされています。
(えー、ここで分流通路の空気流速の微分方程式が登場するのですが、理解できなかったので載せません(爆)。)
ともかく、分流通路の長さや出入り口の面積だとかを最適な寸法に設定しなければ誤差は最小にはならない訳で、当然そのパラメータというのは吸気系に依存します。
ここまでくれば明白ですね。 エアクリーナーだけじゃないのです。 エアクリーナーに限らず吸気管長や吸気管容積からカムに至るまで、吸気系のどこかしら変えれば、脈動が変わる、逆流も変わる、分流通路の効果も変わる筈です。 要するに何変えたって大なり小なりズレて当然なのです。